[肩を並べて In Spring //6]
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「……で? 結局どうなったの?」
春の暖かい日差しが窓から差し込むお昼時。弁当包みを開きながら、アキは朝から浮かない顔をしている親友の様子をうかがった。いつも手作りの弁当を持参しているヒサナだが、今日は学食で買ったサンドイッチと自動販売機で買った紙パックのお茶を手にしている。食欲が無いのか緩慢な動作でラップを剥き始めたが、シールが貼られた部分で引っかかると、力任せにラップを引きちぎった。
「ふん!」
「ひ、ヒサナ……?」
ヒサナが怖い。びくびくしながら弁当に箸をつけると、向かい合った席に座るヒサナは深くため息をついた。
「……ごめん、アキ」
「……いや」
ごめん、ともう一度謝って、ヒサナはたまごサンドを口にした。
昨日のたこ焼きデートはやはり同じ学年の生徒にも目撃されていたようで、早朝からヒサナは同学年の女子から細々とした嫌がらせを受けていた。ひそひそとこちらに聞こえるように交わされる誇張された噂話。同じ小学校の出身者でも真相を知らずに事件の表だけを聞きかじった者ばかりが集まっていたのが災いして、ヒサナは「E組の本田をもてあそんだ悪女」という評判が半日で広まってしまったのだ。
「反論しないの?」
「別に間違ったことを言われてるわけじゃないもの」
「そんなこと」
がらり、と乱暴に教室のドアが開けられて、教室にいた生徒全員の視線が後部ドアに集まった。
「橋立さん。……ちょっと」
すらりとした長身の男子生徒がヒサナを呼んだ。
「本田……あのなぁ」
立ち上がりかけたアキを制して、ヒサナはゆっくりとタカオの前に立つ。
「なぁに?」
「……悪かった。こんなにおおごとになるなんて」
「別に。あなたが悪いわけじゃないでしょ、謝らないで」
「でも」
「いいからもう、ほっといて。あなたと私は今も昔もただの友達。これからもそうなんだから、何も問題ないでしょ」
「ある」
「何よ」
「俺はあきらめないから。友達のままでいるつもりないから」
「じゃあ縁切ろう」
「……はい?」
きびすを返し、ヒサナはタカオをその場に残して席に座る。
「ひ…ヒサナ?」
「ちょっと待って」
タカオはつかつかと二人の傍まで歩いてくると、ヒサナの腕を取った。
「こっち来て」
「放して」
ヒサナは意地になってサンドイッチを食べようとするが、タカオは腕を引いてヒサナを立ち上がらせる。
「来て」
「ちょっと……アキ!」
アキは首を横に振った。
「ちゃんと話した方がいいよ」
「アキ?!」
「いってらっしゃーい。授業に遅刻すんなよ」
「わかってる。ありがとう、小笠原さん」
タカオはうなずいて、ヒサナを引きずっていく。戸口には心配そうなメノウの姿が見えた。あいつが一緒なら、行き先は水泳部の部室か何かだろう。ついて行ってあげてもいいけど、部外者はいない方が話しやすいだろう。小学校が同じというだけで、強くわかり合える部分がある。
「逃げても無駄、隠れても無駄だから」
自分ができることは、ただヒサナの傍にいて彼女の背中を押すことだけ。
「……両思いなんだから、付き合っちゃえばいいのに」
うまくいかないなぁと嘆息し、アキは昼食を再開した。
2008.03.18
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