[肩を並べて In Spring //3]
top >> novels >> home
 新学期始めの一ヶ月は何が楽しいのか団体行進の練習をさせられるけれども、それが終われば短距離の授業になる。
「小笠原」
「はい」
 陸上部に所属するということは、体育の授業の雑用係になるのと同義なんだということをアキは中学一年の時に学んだ。それが嫌だというわけではないのだが、何か心の隅にひっかかるものがある。
「円谷先生がお休みだから、男子の方も見てやらなきゃならないんだ。悪いんだけど、女子のタイム計っててくれないか」
「わかりました」
 よろしく、と教師が走っていく先には男子の一団がいる。
「あれはEとFだね」
 いつの間にかアキの隣に立っていたヒサナがアキの肩に手を乗せもたれかかった。
「あ、ほら。メノウ君が走るみたいだよ」
 緑色のジャージに身を包んだ長身の男子がスタートラインに並ぶ。その中で一際目立つ色素の薄い髪の男子もラインに手を置いた。
「位置について、用意」体育委員の声で腰をあげ、頭を下げる。
 ピストルの代わりに声が上がった。一斉にスタートした一団の中で飛び出したのは二人。一人は黒髪のアキもみたことのある男子。もう一人は
「……メノウが走ってるとこ初めて見た」
 茶色の髪を乱しながら走るメノウは水の中を泳ぐよりも若干苦しそうに、しかし楽しそうに地面を蹴っている。競り合う相手と目で会話しながら僅差でゴールした。
 負けたメノウは悔しそうに相手と肩を組む。
「位置について」
 女子の声が聞こえ、慌てたアキは思わずストップウォッチのスタートボタンを押してしまった。
「あ! ま、待って!」
「はい、馬鹿決定」
 ヒサナが呆れたようにアキの耳元で言った。

2008.03.13


back top next
 
copyright(c)Choco Lemon All right reserved.