[肩を並べて In Spring //2]
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本来、水島瑪瑙は勉強が好きなわけでも、得意なわけでもない。私立の進学校に入学したのは、単に彼女と同じ学校に行き、同じクラスで勉強をしたかったからである。
なのに。
「彼女と同じクラスじゃないってどういうことだよ!」
幼稚園からの友人に胸倉を掴まれた本田貴雄(ほんだ・たかお)は、なだめるように言う。
「だから、小笠原さんは付属中からの持ち上がりだから、内進クラスに入ったんだよ。それにしてもすげーよな、おまえ。スポ薦蹴って一般選抜に入るんだから」
「それもこれも、アキと同じクラスになるためだったのに……っ!」
「まぁまぁまぁ……落ち着けって」
がたんっと音を立てて椅子に座ったメノウはもう一度ため息をついた。
「……オレ、アキに彼氏だって思われてないみたいなんだよね。去年からずっとデートにだって誘ってるし、キスだって一回だけどしたし、家まで送ったりしてるのに。何がいけないんだろう、ねぇどう思う?!」
「……おまえ酔ってるの?」
再び胸倉を掴まれ前後に揺らされたタカオは、反動を利用してメノウの頭に頭突きを食らわせる。
「……イタイ」
「こっちの方が痛いわこの石頭!」
タカオはメノウの前の席に後ろを向いて座った。
「だいたいな、おまえは可愛くて美人でスポーツできて頭もいい彼女の自慢をしたいのかも知れないが、彼女いない歴十五年の俺に惚気話をするな!」
「惚気てない」
「喧嘩話も不仲話も立派な惚気話なんだよ!」
「別にタカちゃんだってモテないわけじゃないじゃないか。失恋をずるずる引きずってる人に言われたくない」
ふいにタカオは口をつぐむ。教室にいた少女たちが、二人を見てこそこそと話しているのが聞こえた。目を反らして、タカオは前を向いて座りなおす。
「……そのことはもういいんだよ」
担任が教室に入ってくると、クラスはしんと静まった。メノウは担任の自己紹介を聞きながら、机の端にあみだくじを書いて、指でなぞった。
スキ・キライ・スキ、
「……オレばっかり好きなのかな……」
2008.03.13
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