[肩を並べて In Spring //10]
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緑色のラバーが夕日に染まり、アキはグラウンドを後にした。
今日は駅前のファストフード店でメノウと待ち合わせをしている。五月も半ばを過ぎ、高校に入ってから二人で同じ電車に乗るのは三回目のこと。心なしか歩調も弾む。
周りには心配されるけれど、アキはこの関係が気に入ってた。ずっと一緒にいるわけではないけれど、必要な時にそばにいてくれる人。彼女なりに、『彼氏』という役割にあるメノウのことを大切にしているつもりだ。
だが、それが恋というものなのかと聞かれると、答えに困る。
好きであることがすぐに恋愛感情に結びつくものだとは思えないのだが。
昨年結婚した姉には、どうしてそんなに迷うのかと詰問された。何を迷うことがあるのか。いつも自分を通してきたアキらしくないと。
あの時自分は何と答えたのだったか。アキは紫色に染まる空を見上げた。
あいつとかき氷を食べに行った日もこんな色の空だった、なんて思うくらいには好きなのに、どうして手を伸ばせないんだろう。
月明かりもなく、通学路だというのにこの道は細くて暗い。しかもこの季節は変質者が多発することで有名だ。アキはまだ遭遇したことはないが、先週も露出狂が出没したと担任が言っていたことを思い出す。
アキは小さく息をついた。中学生の頃から何度も通った道なのに、今日はいっそう暗くよそよそしく感じられる。心細く感じるのは一人だからか、それとも。
「明」
聞こえるはずのない声だった。でも、彼ならばいるような気がしていた。
細い道にぽつんと置かれた自動販売機に寄りかかり、スポーツバッグを肩に提げた長身の影。
「……待っててくれたの?」
「校門だといろいろうるさかったから、しばらく別のところで時間つぶしてた」
「店で待っててくれればよかったのに」
差し出された手を素直にとって、アキは歩きだす。細くてなめらかな手をそっと握ってメノウは小さく笑った。
「心配だったから」
「平気だよ。中学の時も通ってた道だし」
「違うよ」
指を絡めるように握りなおされた手の温かさに、アキはメノウを見上げる。
少しだけ色素の薄い虹彩の、中心を見分けるかのように見つめ、アキはくすりと笑った。
「大丈夫だよ」
「本当に心配なんだ。不安になる。いつも俺だけ好きみたいで」
「何が?」
「……明。怒るよ」
「でもさ、仕方ないじゃん」
握りかえした手の感触を確かめながら、少し背伸びをしてメノウの耳元に顔を寄せる。
「ボクはそういうの上手じゃないし」
諦めろ、恋人。
「好きってだけで勘弁して」
2009.05.01
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