misty blue roses 02 いつからか、閉校の放送が入るまで学校にいるようになった。 誰もいない教室に潜り込んで、遠くから聞こえるチョークの音と教師の声を聞きながら窓の外を見る。 誰かの体温を感じるのが嫌だった。家に帰ると、同じ部屋にいなくても年の離れた姉の気配と物音がするだけで吐き気がした。 その拒絶反応が許されない想いへのものだと気づいてから、休日も家にいることができなくなった。近隣のライブハウスを回っている時に知り合ったやつらとなぜかバンドをやることになり、インドア派だった俺が出歩く理由ができた。 音楽とスポーツだけはやりたくないと思っていた。両親の離婚によって母方に引き取られた俺の双子の兄貴と比べられるのが嫌だった。あの二人と同じだということが、姉と自分との距離を強調するような気がしたから。 だけど俺には、これしかなかった。白と黒の鍵盤をおもちゃにして育った記憶を消すことはできなくて、何より心の中に閉じ込めた想いを表現する手段が欲しくて。 バラードを書いたのは必然だった。元々洋楽好きが集まったバンドだったから、歌詞が英語だったのは当たり前のようなところがあったけれど、他の歌みたいに有名な歌の歌詞を切り貼りして作ったようなものでは納得がいかなくて、全部を一人で書いた。 『misty blue roses』――白く煙る世界の中、誇り高く咲く幻の花。 目の前に見えているようで、それは決して触れられない、手に入れられないもの。 焦がれる気持ちを持て余して、今日も僕は歌う。 永遠に届かない想いを、無機質な金属の塊に閉じ込めて。 きっと俺は変化を望んでいるんだ。不安定な日常に波紋を投げかけるようなもの。 そうじゃなきゃ、きっといつか壊れてしまう。 不穏な物音に、握り締めた携帯から目線を外すと、知らない女子がドア付近で突っ伏していた。中途半端に開いたドアから、彼女が何をしていたのかは明らかで。 「お前最低だな」 気まずげに笑う少女が、俺の日常を変えてくれるものとなるかどうか。 たまには自分から、動き出してみようと思うんだ。 END.
2009.03.03 タイトル部分に「あんずもじ」を使用しています。
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