|
eacape to escape
|
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ……。
一体の人形が、怯えた表情を顔に貼りつけて石畳の通りを走り抜けていく。
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ……。
しかし彼女を追いかける者はいない。
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ……。
人形の眼球は四方八方を見渡して逃げる場所を探すが、そんなものはない。
なぜなら彼女自身、自分が何から逃げているのかわからないからだ。
人がやっとすれ違えるくらいの狭い小道を、人形の足は一心不乱に走り抜ける。人形の首は左右に頭を動かす。
ほどなくして、道は小さな扉に阻まれた。
逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ逃げなくちゃ……。
人形の手が扉を開け放つ。
「おかえりなさい」
小さな家の前に、片眼鏡をかけた青年が一人立っていた。
「!」
彼女は目を見開き、後ろを振り返って……。
――まっすぐ逃げてきたのに!
彼女は唐突に知る。
彼女は神から逃れようとしていたのだと。
「いあああぁAぁあぁあAあぁAaぁaぁっ!」
突如悲鳴がやみ、人形はその場に崩れ落ちた。
青年は人形を抱き上げて、飛び出した螺旋を拾う。
「もう、逃げなくていいんだよ」
そうして青年は、人形の胸に螺旋をはめた。
彼女は微笑んだようだった。
END.
2006.10.21
|
novels
|
|
|
copyright(c)Choco Lemon All right reserved.
|